長すぎたって不便なことはない。


1年半前のある日のこと。
当時、離れて暮らしていた母から電話がありました。

「実はな、お母さん……結婚を考えとる人がおるんや」

難しい年頃といわれる身とはいえ、既に両親が書類上の離婚して2年。
同居していた時代、父親との仲違いの腹いせとして
さんざん殴られていた自分にとっては、
もし母親が新しい男を迎え入れて安定してくれるなら……という思いもあり、
再婚話は願ってもない話でした。

「ほう、そうか……よかったやんか。
 して、相手のお名前は?
 もしかしたら、苗字も『雨宮』から変わるかもしれへんのやろ?」


今もベタな苗字ではあるけれど、気にいってはいるし、
田中とか鈴木とかありがちな苗字は嫌だなぁ。
名前も、義理の父親は安次郎、とかだったら嫌だなぁ。
とか、色々思いをめぐらせ、尋ねてみると。

「それがな……○@×△●*(聞き取れず)っていう……」
「はあ? ごめん、もう一回言って?
 日本人の名前にしては長いんじゃないか?」

「だからな、ムハメド・×××××・○○○(本名)っていう人でな……
 パキスタン人のひとやねん」


「……はいい!?」





「お前、名前長すぎやろ」
「うん、向こうの人は長いみたいでな。
 みんなサムって呼んではるから、そう呼んでええで」

「そうか……サム、サムやな。
 なんか急に欧米人チックなあだ名やな……。
 まあそれはええよ。大体、どこが名前ですのん?」

「×××××(2番目の名前)が名前らしいで。
 一番上が宗教名みたいなやつで、三番目がサムのお父さんの名前やって。
 だけどな、ほんまは苗字がこの後につくから、もうちょっと名前長いねん

「……_| ̄|○ili|i
 俺、義理パパの名前、よう覚えられへんで」

「まあ『サム』だけ知っておけば大丈夫やで」

というわけで、たったの2つだけしか名前を持たないシンプルイズベストな日本人にとって、
向こうの人の名前は大変長いですよというお話。
サムのフルネームが暗唱できるようになったのは、この4ヶ月後、
入国管理局に入っていたサムから手紙がきてからの話です。

基本は宗教名+ファーストネーム+父(夫)の名前+苗字のようですが、
人によって苗字が先についたり、女性は宗教名がつかなかったりすることもある模様。

「で、自分は苗字変わるの?」
「いや、そんなことはない。今まで通り私といーちゃんは雨宮姓やで。
 パキスタンに行ったらちょっと名前が変わるようやけど」

「?」

当時は分からなかった、母のこの言葉。
おそらく、この三番目の「父の名前」が変わると言いたかったのでしょう。

自分も含め、普段関わりのない日本人には
なかなかこの名前の仕組みは理解できないようです。
母が婚姻届を出すときなど、ファーストネームが真ん中にあるので、
役所の人にミドルネームだと勘違いされて書類上からすっ飛ばされ、
危うくサムの父親と結婚するところだったとか。

一昨日、サムからこの名前の話を聞く機会がありました。

「例えばね、誰かが知らない人に私をする時に、
 『この人はサムです』って言ってもどんな人か分からないでしょ?
 だけどさ、もしその相手の人が町の人とかで、私のお父さんを知っていたら、
 『この人は○○○の息子のサムだよ』って言ったら
 『ああ、なるほど』ってなるじゃない?
 この名前もそういうことなの」


そういう話を聞くと、それこそ「ああ、なるほど」と思ってしまいます。
行くところ行くところ知らない人ばかりの日本では効かない手かもしれませんが、
周りが顔見知りばかりという社会がいまだに成り立っている向こうならば、
こんなに合理的な命名はないでしょう。

「オサマ・ビンラディンも、みんな『ビンラディン』って呼ぶけど、
 本当は『オサマ』が名前で、アラビア語で『ビン』っていうのは『息子』って意味なんだよ。
 だから日本語だとね、『ラディンの息子』『ラディンの息子』って呼んでることになるんだよ。
 私はそれがおかしくて……」


なるほどなるほど、あんないい年こいたおっさんが『息子』はないよな。
ちょっと調べてみましたが、実際は『ラディンの息子』と名付けられた一族のようです。

そして究極のオチ。

「それでね、私の×××××って名前も
 すっごく珍しい名前なんだけどね、それでもいないことはないんだよ」

「ほむほむ」

「だけどね、これ本当は女の子の名前なんだよ」

「Σ( ̄□ ̄;)!?」
「でね、「ミスバ」(サムの妹)が男の子の名前なの。
 だから小さい頃は『二人で名前を交換しようかー』なんて言ってたものだよ。
 いやあ、パキスタンでは名前だけでよく女の子と間違えられて……」


な、ならサムは「雨宮優子さん」とかになってしまうのか!?(日本語変換機能発動中)
というか、「サム」なのに女の子の名前って、どうなってるんだパキスタンー!?

パキスタンには謎が一杯。

ちなみに母とサムがよく使う私への呼び名「いーちゃん」は、
ウルドゥー語で「うんうん、なるほど」あたりの相槌と同じように聞こえるそうです。

パキスタンには謎が……一杯だ!!
[PR]

by esther21 | 2007-10-13 13:00 | 家族  

<< 我が家におとうとがやってきた! 似たもの同士 >>