実父からの電話


おとーちゃんから電話が来た。

「おう、元気か」
「おめえこそどうなんだよ、このガイコツ(;´Д`)」

確か昨日あたりだったような。
火力ショボショボの電気ヒーターに当たって、
のんびりまったりパソコンいじくってたところへ、
いきなり携帯電話が鳴りました。
雨宮の父でした。

会ったのは5月が最後。
電話越しで話すのも、夏あたりで最後じゃなかっただろうか。
とにかくかなり久々の電話。




「あんなぁ、俺、今、
 市内の○○のちょっと奥行ったところの、山のほうに住んどってなぁ」
「ほーう、そうか」
「やっぱなぁ、今年も寒いもんやから、山のほう行くだけでも違うわ!」
「ほーう、そうか」
「今、前勤めとった会社辞めて別の運送会社で働いとってなぁ」
「ほーう、そうか」
「この辺みたいに道が狭いと、トラックはよう通らんけん、大変やわ」
「ほーう、そうか」

親子の会話、ものっそい一方通行。

ちなみに私のほうは、本人を面前としても電話を介していてもデフォルト無表情です。
いつもニコニコヘラヘラ笑うだけがお前の仕事と言われる私としては非常に稀です。
親父のほうだけが、子供と話せて嬉々としています。
なんだか光景として、とても不気味だなあ……。
当事者なので見なくて済むのが救いだな、これ。

「いずみは元気なんか? 母さんも元気か?」
「ああ、別にたいしたことないよ」
「あー、えーっと、ごしゅ……ご主人さんは元気なんか?」
「ああ、別にたいしたことないよ」
「ご主人さんもお仕事の都合で、
 朝早くに出て行ったりとか夜中に帰ってきたりとかするんやろう?
 大変やなぁ」
「ああ、別にたいしたことじゃないよ。
 パチンコで夜中に帰ってくるお前と比べたらだいぶまとも」

「そうかw」
「おまえ、そこ笑うところじゃねえよ」
「はっはっは」

ちなみに実父には、色々と知らないことがあります。

1. 元嫁(母)の再婚相手がパキスタン人だということ
2. 四十路間際にして元嫁が再婚相手と子供をこしらえたということ
3. もちろん子供もパキスタン人であること

「え? 別に話す必要ないし」
「まあ、それもそうやな。色々と面倒くさいしな」

きっと、雨宮のおっさんは、
私の義父を普通の会社員男性かなにかと勘違いしているに違いありません。
しかし、その辺の美しい勘違いは知らない振りをして泳がせておくのが、
一人っ子(実父にとっては)の気遣い。子供の品格。オトナの余裕。

いつ奴は、元嫁の旦那が日本人でないことに気づくのでしょうか。
ちょっぴりドキドキワクワクしながら、生暖かい目で見守ります。

「俺もなあ、四国に帰ろ思うてた時もあったんやけどなあ……」

「連帯保証人がおらんくて、部屋借りるのに苦労してなあ」

「いずみの施設費もちょぼちょぼ払い始めたところやわー」

「あー、はいはい」

だらだらと愚痴しか垂れ流さないおっさんというものは、
もはや害とはなれ、得なんてひとつもない存在になり下がります。
寒くなってきたので電気ヒーターの強度を最強まで上げ、送風口に三角座りしながら、
いつ適当な口実を設けて切ってやろうかと考えをめぐらせてるうちに、
ふと、実父がこんな話題を切り出し始めました。

「今年はほんまに寒いなー」
「おまえ、その話何回目だと思ってるんだよ」
「いや、俺のストーブ、使こうてくれよる?」
「……ストーブ?」
「黒くて、ちっさい……」
「電気のやつ?」
「そうそう」

「使うてくれよる」も何も、
それはまさしく今私の使っている電気ストーブのことではないか。
それがどうかしたのか親父。
まさか……

「使うとるよ。どないしたん?」

「……。

 あ、いや、使うとるならええねん! 使うとるなら!!
 大事に使うてくれや!! はははは!!」
「……」

目的、バレすぎ。

これが……欲しかったんか……。
ものすごい勢いで火力不足のショボヒーターなのに……。

「使うんか?(;´Д`)」
「いや! ええ、ええねん、いずみが使うてるならええわ!
 そしたら、また電話するから、もし気が向いたら出てくれや!
 あは、あははははは」

プツッ。

プー プー プー ……

回線の切断された音を聞いた後、
私は、携帯電話の電源をそっと静かに落としました。

実父よ……
お前は、元嫁の家からファンヒータをむしりとりたくなるくらい寒いのか……
なんかなあ……実父よ……
私は、そんなお前の財政状況だとか、それでもやめられないパチンコ癖だとかが、
時々、すごく、凍えるくらい寒く感じるときがあるんだ……

ああ……

その直後、リビングの石油ファンヒータの送風口で、
電気のそれとは比べ物にならない強い風を受けながら、
ただひたすら暖をとるために、三角座りをして身体を温める、
雨宮いずみの姿がひとつ、ありました……。
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by esther21 | 2007-12-06 21:09 | 家族  

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